脳脊髄液静脈瘻3-経静脈塞栓術とその後-

2025.08.22

手術に向けて

手術の際は前日入院で、通常4泊のようです。私は順調に回復したこともあり、3泊で退院することができました。

手術の順番が一番最後だったので夕方のコールとなりました。検査時とは違い今度は全身麻酔なので、待ち時間も少し気が楽でした。麻酔の時間は4時間で、手術自体にかかった時間はおおよそ3時間。術後、先生が「今までで一番難しかった…」とお話くださいました。理由は、静脈瘻の場所の特殊性にありました。

経静脈的塞栓術(Endovascular Embolization)とは

この手術は、静脈を介して漏出部の静脈にカテーテルを誘導し、塞栓物質を注入することで脳脊髄液の漏出を止める方法です。静脈は動脈に比べて細く、まるで根っこのように這っています。その無数の細い管の、漏れを起こしている一点に栓をする作業で、気の遠くなるような精緻な手技です。今回こうした機会に接して、私は改めて人間の血管がどんな風に体の中に位置しているのかを図解で見たのですが、とても複雑な生え方(?)をしているのですね!そして、胸椎9,10番エリアには、上からも下からも静脈が来ていて入り組んでいます。どこからアプローチしていくのか選択が難しい場所なんだそうです。

私のケースでは、まず右上腕静脈から奇静脈への誘導が試みられました。「気管支の外側を通り気管・錐体間を通り左側へループしていた。ワイヤーはなんとか通ったが追従せず、選択困難」、つまり到達できなかったため、次に右大腿静脈から左上行腰動脈の選択が試みられました。・・この手術記録の詳細をここで引用するのは、長文ですし内容が難しいため避けますが、この2回目のアタックは途中で出血が起こったためアプローチ困難となり、さらに別のルートからの再挑戦で到達。合計3回のアタックの末、無事に塞栓完了となりました。

手術記録を頂戴し読ませていただいたのですが、専門的なことはよく分からないながら、その細やかさに驚くとともに、淡々とした文章から滲み出る先生方の精神力にただただ頭が下がる思いでした。そして、医療の進歩への感謝、尊敬の念でいっぱいになりました。先生方の足元にも及びませんが、私もできることに精一杯を尽くし、いただいた尊いエネルギーを世の中に還元したい。医療従事者の皆さんの日々の営みを思うと、本当に胸が熱くなります。

術後の変化

手術の翌朝、カーテンを閉め忘れていたために、日の出の光に目が覚めました。太陽がぐんぐん登ってゆく様子、窓越しではあるけれど朝日を体に受けて、何か新しい人生がひらけてゆくような感覚を覚えました。忘れられない朝になりました。

術後は、全身麻酔から体が平常に戻るための段階を順々に経て、無事退院。ブラッドパッチのように直後から劇的な変化があるわけではありませんが、それでも幾つかの症状に変化が訪れました。睡眠の質が明らかに良くなったことも大きいですが、台風が発生しても気がつかなくなりました。脳脊髄液漏出症は気圧変動から頭痛や倦怠感を生じることがあり、体調も変動することが多いのです。私の場合は、台風が来た時ではなく、なぜが台風が遠くで発生する直前に影響を受けることが普通のことになっていました。手術以降、悪天候による多少の体の重さは感じますが、おそらくこれは健康な人でも感じる程度のもの。

その後も少しずつ少しずつ、体に変化が起きてゆきました。羞明症状が軽減していることは、サングラスをかけるのを忘れてしまう自分の行動から気づきました。体が軽くなったことは、仕事場に行く途中にある福吉坂階段で。まるで自分の足ではないように感じます。「倦怠感」がデフォルトだったことも、解放されて分かること。何しろ子供の頃からなので一般的なレベルを知らないのでは?と言われていましたが、どうやらそのようです。これらの新鮮さを表す適当な言葉を見つけられずにいます。

そして何より、強烈な頭痛発作が起こらなくなりました。

とても信じられないことです。静かな喜びに満たされています。ただ、まだ経過観察が必要な段階なので、変化を見守るといった毎日です。検査も半身のみですので、もしかすると今回塞栓した部位以外にも静脈瘻がある可能性はゼロではありません。完治した、とは言いきれませんが、あの苦しい症状が一定期間でも起こらないのは、本当に本当に有難いことです。

未知の世界

脳脊髄液漏出症の難治例の中には、静脈瘻であるケースがあります。まだまだ知られていない病の、その中でも知られていないこと。どんな分野にもこうした可能性があるのかもしれない、そんな未知の世界を感じつつ、これからの時間を豊かにしてゆけたら、と思っています。

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