脳脊髄液静脈瘻2-脊髄造影検査-

2025.08.21

瘻とは

有難いことに、早い時期での受診予約が取れ、また、たまたま検査の空き枠があったことから同日にMRI検査を受けることができました。先生のお見立てでは、画像から低髄液圧であることは確かだが漏出箇所を特定できるような顕著な所見は見られない、とのこと。日を改めて造影MRI検査を受けることになりました。

これまで私は腰に9回ブラッドパッチを行なっていますので、それで改善が見られないとすると頸に漏れがあるのではないか、というお話もありました。そして、もし次回の造影MRI検査で漏出部位が特定できなければ、「静脈瘻の検査を受けてみてはどうか」とご教示いただきました。

「瘻(ろう)」とは、本来つながっていない部位同士にできた異常な通路(トンネルのようなもの)を指します。脳脊髄液静脈瘻とは、髄膜内の脳脊髄液が異常な経路で静脈とつながってしまい、持続的に脳脊髄液が吸収・流出してしまう状態です。

脳脊髄液漏出と痛み

8年前に受けたシンチ検査と比べると、今回の造影MRI検査は格段に楽なものでした。ただ、そんな検査であっても案の定、帰宅後に猛烈な頭痛が始まり体調的には一波乱でした。電磁波の影響なのか、病院の行き帰りの光刺激や座位姿勢が影響したのか・・いつものことですが、よくわかりません。

1週間後の結果説明では、顕著な漏れがある部位は特定できない、とのことでした。左側胸椎10番あたりに白いモヤっとしたものが見られるが、これを標的にブラッドパッチをするよりも、まずは静脈瘻の検査を受けに行った方が良い、静脈瘻がないと分かった時点で次の手段としてブラッドパッチを考えましょう、とご説明いただきました。

会計待ちの間に胸椎10番の位置を自分で確認してみたところ、ハッとしました。そこは幼少期からずっと痛みを感じる部位です。慢性的なものですが24時間絶えず痛みを感じるわけではありません。ただ、得体の知れない体調変動は大概その部位の痛みが強くなることから始まり、その後に前側の腹部が痛くなり、立位・座位が辛くなり、そして色んな症状が・・という順序がありました。

「脳脊髄液は漏れると痛みを感じるのかどうか」について先生に改めて伺ってみたところ、「局所症状は漏出部位を推定するための重要な状況証拠になり得る」とのこと。

私にとっては衝撃でした。これまで誰にも理解されなかったこの痛みが、脳脊髄液漏出症から生じている可能性があるなんて。いえ、正確に言うと、自覚的にはずっとこの違和感と痛みが体調変動に関係するのではと思っていたのですが、無関係だと言われたり、その他の原因との関連付けをされたりし続けたため、いつしか伝えることすらしなくなったものでした。

静脈瘻の検査へ

紹介状をいただき、みなと赤十字病院を受診、M先生にお目にかかることができました。デジタルサブトラクション脊髄造影検査(Digital Subtraction Myelography: DSM)は6月に受けることに。一泊入院です。
この検査は麻酔を使わずに行うため、辛い検査であることの説明を受けました。躊躇う気持ちが皆無だったわけではありませんが、「少なくとも自分の体の状態について新しい情報を得られる」、その理由から検査を受けることにしました。

初めての体験

全身麻酔手術はこれまで10回ほど受けていますが、逆に麻酔なしで手術室にて医療行為を受けるのは初めてでした。入室すると、手術台の上には山型を形成するために何層にも重ねられたクッションがあり、そこに横向きで横臥の姿勢をとります。腰が一番高くなる体勢ですので、頭に血が上るような感覚があります。そして、腰から髄膜内に造影剤を注入し圧を高めていきます。

静脈は非常に細いため、圧をかけなければ造影剤が流れこまず、画像に映らないのだそうです。さらに「大きく息を吸って・止めて」を繰り返す必要があるため、麻酔を使わず意識が保たれている状態行う必要があります。

圧が高まるので一瞬は心地良いような・・というのも束の間。内側から体が押されているような感覚から頭がどんどん圧迫され痛くなり、耳が聞こえなくなってゆき、世界が遠のいていきます。左顔が下方に引っ張られるように落ちてゆく未知の感覚、そして左半身に重い痛み。意識が朦朧とし寝てしまいそうになる(意識を失いそうになっている?)中、呼吸の指示に従うことは大変でした。

マインドフルネスとセルフコンパッションで

ちょっとした恐怖体験でもあるので、自分に対する好奇心も相まり、検査中はマインドフルネスを意識して過ごしました。こういうときに体の感覚にあえて意識を向けるのは、少々勇気が入りました。これまでは、「私は大丈夫、これまでいろんな痛みを経験してきたし」とある種の陽のコンパッションで痛みから意識を遠ざけるということをしていたと思いますが、今回は実験。あるがまま、今体に起こっていること、感じていることに意識を向け続けつつ、思考がどこかへお出かけしたら呼吸に戻す、を続けました。体が動かなくなり感覚も鈍感になる中でどこで呼吸を意識できていたかというと、鼻先です。鼻の先の皮膚の感覚、確かに空気の温度が吸う息・吐く息で変化することを感じました。いつもやっていることではあるけれど、なんだか新しい感覚。そして、痛い時、苦しい時はセルフ・コンパッションをフル活用。心の中で自分に声がけを続けました。

検査後の体調

「今辛いよね、もうすぐ終わりだからね」先生にお声がけいただいて、これがマックスか・・それなら耐えられると安堵しました。その後はさらに意識が遠くなり、声を出すのも大変になりました。検査が終わる頃から吐き気も強くなりました。体に力を入れづらくなり動けない状態に。目眩も相まって瞼を上げることもやっとでした。CT検査室にはベットで移動ですが、この移動時のちょっとした振動や遠心力が・・・耐えることで精一杯!

病室に戻り、ちょっとずつちょっとずつ症状は和らいでいきましたが、しばらくして左耳の聴こえが悪くなっていることに気がつきました。低音だけが聴こえづらい状態は1週間ほど続きましたが、一過性のものでした。突発性難聴の疑似体験となりました。

これまでいろんな検査を受けてきましたが、たしかに今回が一番ハードでした。この検査は片側ずつしか行えないので、もし今回の左側の検査で何も見つからなければ、次に右側の検査を同様に行うことになります。再度体験するには、これまた勇気が入りますが、今回想定外のことは起こらなかったので、その安心感はあります。私は薬のアレルギーがとても多いこともあり、加療を受ける際は慎重にならざるをえない部分があるのです。

DSM脊髄造影検査の結果

数日後、結果を伺いに再びみなと赤十字病院へ。診察の待ち時間は、思考の整理と確認作業であっという間に過ぎました。何しろ命の危機を感じるような検査でしたので、再度受けることについて自問自答、セルフコーチング。片側で原因が判明すれば良いけれど、”そんな運がいいこと私に限ってないよな・・”と、期待値を下げようとする心の作用に苦笑い。そして診察に呼ばれました。

この読影は大変難しいそうで、先生が丁寧に丁寧に何度も映像を見返してくださいました。が、無さそうな気配。「あの、、胸椎10番あたりに子供の頃から痛みがあります、その辺りにも何もありませんでしょうか・・」と、その伺う声には諦めと覚悟と嘆願が入り混じっていたと思います。

「あ、これか?!」

なんだか細い髭のようなものが、映っています。そして、それは確かに、胸椎9番と10番の間とのこと。

この時の気持ちは、どんなだっただろう。長い間解けなかった問の答えに、一歩近づいた瞬間でした。ただ、全ての症状の原因がこの部位のみとは限らないので、右側も検査してから手術を行うかどうかに関して先生に尋ねられました。

私は、子供の頃からの感覚を根拠に、この左側の静脈に対する手術(経静脈的塞栓術 Endovascular Embolization)を、まず受けることにしました。

この続きについて…

次回は、実際に受けた「経静脈的塞栓術」手術についてお伝えします。

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